大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和43年(ネ)707号 判決 1969年7月30日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「一、原判決中控訴人敗訴部分を取消す。二、被控訴人の請求を棄却する。三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠関係は次に附加、訂正するほか原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。

一、原判決二枚目表末行目「承認し」の次に「更に被告は昭和四二年八月原告の代理人庄野弁護士に対して右貸金債務を承認し三万円に減額して貰えれば支払う旨申向け」を加え、同枚目裏一行目「債務承認により中断した。」を「債務承認による中断ないし時効利益の放棄により債務は消滅するに至つていない。」と改める。

二、原判決二枚目裏三行目より同九行目までを「原告主張の二口の消費貸借の事実は認めるが、金一〇万円については昭和二九年六月元利金を完済した。仮に右一〇万円が未払だとしても右貸金は被告が当時営んでいた製材業の資金として借入れたものであるから商事債務として五年の短期消滅時効が適用され昭和三三年一一月七日には右時効が完成して債務が消滅している。なお別口一万円の貸金については普通債権として一〇年の消滅時効が適用され昭和三九年一一月二五日時効が完成し債務は消滅している。被告は本訴において右時効をそれぞれ援用する。原告が時効中断事由として主張する債務承認の事実並びにその主張する時効利益の放棄の事実はいずれも否認する。仮に時効完成後たる昭和三七年六月、同四二年八月それぞれ債務承認をなしたとしても右は時効完成を知らずになされたものであるから時効利益の放棄とはならない。また仮に右昭和三七年六月の債務承認に時効利益の放棄の効力があるとしてもその後再び時効が進行して昭和四二年六月には右時効が完成しているので本訴において右時効を援用する。」と改める。

三、証拠(省略)

理由

当裁判所も被控訴人の本訴請求を原審認容の限度においてこれを正当として認容し、その余はこれを失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は次に附加、訂正するほか、原判決理由に説示するところと同一であるからこれをここに引用する。

一、原判決三枚目表二行目より同枚目裏三行目までを次のとおり改める。

「被控訴人と控訴人との間被控訴人主張の約定で金一〇万円及び金一万円の二口の消費貸借がなされたことは当事者間に争いがない。

よつて控訴人主張の弁済並びに時効の抗弁について判断する。

先ず金一〇万円の元利金弁済の点については控訴人の主張に副う当審控訴本人尋問の結果は弁論の全旨により明らかな右一〇万円の借用証書(甲第一号証)が今なお被控訴人の手中に存する事実に徴したやすく措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠は存しない。

次に消滅時効の抗弁について考察すると、原審被控訴本人当審控訴本人の各尋問の結果に徴すると、金一〇万円の貸金は控訴人が当時営んでいた製材業の営業資金として借入れたものであることが認められるから右一〇万円は商事債務として五年の短期消滅時効の適用を受け、別口一万円については普通債権として一〇年の消滅時効の適用を受けるが、原審証人江藤一男の証言により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一、二、原審被控訴本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四号証の各一、二右江藤一男の証言及び被控訴本人尋問の結果を綜合すると、被控訴人が前記二口の貸金について昭和三七年五月二九日頃代理人訴外江藤光雄をして控訴人に対し支払を催促したところ控訴人は右債務の支払猶予を求めたことが認められ、右の認定に反する当審控訴本人尋問の結果は前掲証拠に比照してたやすく措信し難く他に右の認定を覆えすに足る証拠は存しない。尤も被控訴人主張の控訴人が昭和三二年中に債務承認をなしたとの点はこれに副うような原審被控訴本人の供述は当審控訴本人の供述に比照したやすく措信し難く他にこれを肯認するに足る証拠は存しない。右の認定事実に徴すると、貸金一万円については前記昭和三七年五月二九日頃の債務承認により一〇年の消滅時効が中断され、貸金一〇万円については支払期日の昭和二八年一一月五日の翌日から五年の消滅時効が進行し昭和三三年一一月五日右時効は完成するに至つたから、右昭和三七年五月二九日頃の債務承認は右時効完成後の債務承認といわなければならない。しかして時効完成後の債務承認については債務者たる控訴人がその主張のように時効完成の事実を知らなかつたとしても時効による債務消滅の主張とは相容れないものであつて債権者としては右の債務承認により債務者は爾後もはや時効を援用しないものと考えるのが通常であるから債務者がその後、殊に本件のように相当期間経過後において、その債務につき時効を援用することは信義則上許されないものと解するのが相当である。そうだとすると、貸金一万円については控訴人の債務承認による時効中断により、また貸金一〇万円については控訴人のその余の時効の抗弁については判断するまでもなく前記時効完成後の債務承認により控訴人は爾後において消滅時効の援用をなし得ないから、いずれも時効による債務消滅を認めえないものというべく、控訴人の前記時効の抗弁は理由がない。

二、原判決四枚目表五行目「昭和三八年」を「昭和二八年」と、同六行目「昭和三九年一一月五日」を「昭和二九年一一月一五日」とそれぞれ訂正する。

よつて原判決は相当であり本件控訴は理由がないからこれを棄却し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用し主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例